西暦二千十七年十一月六日

赤くて低い月と冷たくて高い月が二つ出ていた。両者を同時に見たわけではなくて、電車移動を挟んだから三十分くらい目を放したすきに顔が変わっていた。たぶん、前者は月ではない。

 

すこし踊った。

さいきんは踊ることをよく考えていて、どういうことかといえば自分の領地が欲しい。踊るといってもその方面には明るくないので、自分の身体を楽器のように、筋肉と関節の動きを美的な織り物として組織するような境地はとくに目指すところでもなく(それはそれで楽しいのだろうが)、せいぜい体中の関節をランダムに動かす程度にとどまる。それでも効果はある。単純な体操として、そしてなにより、公共の場所で自らの身体の可能な動きを試す、それを通じて小さなオープンワールドを作り出すこと。おれは人間という名のけものなんだよ。

世界はオープンワールドのはずなのになぜ……部屋ではいけない。どこかよそよそしさで身が縮こまる場所で、例えば駅のホーム、公衆トイレの個室、今日はといえば河川敷の橋の下だった。音楽はあるといい。なくてもいい。うたは唱ったほうがいい。そうしたら家に帰っておいしいものを食べたほうがいい。夜ははやく寝たほうがいい。