西暦二千十八年一月一日ノ二

▼ 蟹を食べました。

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父の実家も郊外の、さらに治安の悪い地域にあってもかつてはぴかぴかの新興住宅地だったことが忍ばれる、そんな家ももうわたしが幼いころには壁が浮いていた。

 

七つの星系を股にかけた海の男で、星間運輸業を営んでいた祖父のスペースオペラな冒険譚ももう五世紀は昔のこと、あまりいい気持ちはしないのは父だけで、これだけ世代が離れてしまえば孫のわたしにとってただの憧れである。

 

うらやましいな。

 

蟹を食べたのだった。偉大な祖父の未だに活きる伝手によって、我が一族は地球の新年にガニメデ蟹を食べるのが恒例行事となっていた。なんと今年は生だった。特殊な保存法でなければすぐに腐って溶けるガニメデの蟹を一年分以上も食べるのはこの貧乏な胃には少々重荷ではある。長寿の秘訣だ、食べなと祖父は言う。死ねなくなるの間違いでは。新雪のような身は舌に触れるか触れないかのところで儚く消えてしまうけれど、濃密な旨味だけが後を引いて日本酒がすすむ。すすんだ。祖父とたばこをすった。毒のないやつ。なんかありがてえ訓示をいただいたような気もする。わすれた。彼もわすれているだろう。明日も母方の親族による宴会が行われる。もうつかれた。生の蟹身のようにすっと消えてしまいたい。

 

明日に続く。